「あらたしい」「しだらない」はなぜ言葉として残らなかったの?音位転換(メタセシス)を考える!

あきらんトリビア

バブル景気が華やかりしき頃、芸能界とかで「ちゃんねぇとしーすー」(おネェちゃんと寿司)「ジャーマネ」など、やたらと言葉の順序をひっくり返して話すことが流行り、やがてその流行がバブルの崩壊とともに廃れたあとは、その滑稽さを面白おかしく嗤うための「ネタ」として、いまも時折り、その「逆さ言葉」を耳にする機会があります。

以前にビジネスの場で、その時代にテレビタレントをしていた方(名前を言えば、ああ!と言われるくらいの方です)とお仕事をする機会があり、お酒の席でその時代の業界裏話を聞かせて頂きました。非常に興味深いお話をたくさん伺い、有意義な飲み会で楽しかったです。

でも、こういう言葉の順序替えって、なにもバブルの業界用語だけじゃなくって、身の周りにも結構あるよね?という話題でも盛り上がり、そのときの会話のなかで出てきた「言葉」を今回は紹介していきたいと思います。

音位転換(メタセシス)とは?

言葉の並び順が変更してしまう現象のことを、学術用語でこのように言うらしいです。

もともと言葉とは、書き言葉と喋り言葉がありますよね。
いまも畏まったお手紙等で「~で候(そうろう)」などと書く方はいるかもしれませんが、道端でそんな会話をしている人はいません。昔は本当にそういう言葉でしゃべっていたのでしょうが、時代の流れで会話の場からは姿を消し、文章でのみ残っているのでしょう。

つまり何が言いたいかといいますと「喋りやすい言葉に引っ張られて日本語が変化していく」ということです。

そんな事例で、冒頭の飲み会の会話で出てきた事例を次項から幾つかお話していきますね。

「新しい」はもともと「あらたしい」だった!

これは高校時代に古文を勉強していて「あらた」という古語が出てきたときに「あれ?」と感じたのを覚えています。
「新たな出発」とか、確かに「新(しん)」の訓読みは「あらた」です。なのに「新しい(あたらしい)」って発音するのは何故??って。

この「あらた」という言葉は古文の参考書によると平安時代から存在するレッキとした古語。その「あらたしい」が「あたらしい」に音位転換されていったのは、江戸時代だといわれています。
おそらく寺小屋等ではきちんと「あらた」として教えていたにも関わらず、どの時代にも「ちゃんねぇ」「しーすー」と混ぜっ返して覚える業界人みたいな軽い奴がいて「あたらしい」と少し崩して楽しんでいて「あ!そっちのほうがいいかも」という形で、やがてアメリカザリガニやブラックバスみたいに「あたらしい」が日本の古式ゆかしき「あらた」という言葉を蹂躙していったのではないか?という推測がなりたちます。

因みに「あたら」という言葉も古来より個別に存在します。
忠臣蔵とか、そういうドラマを見ると「あたら忠義の士を死なせてしまった」とか、そういうセリフがでてきます。
この「あたら」は漢字で「可惜し」(あたらし)と読み、残念にも、とか、惜しいことに、とか、そういう意味をもつ平安の御世からの美しい日本語です。

「あたらしい」というアメリカザリガニ(笑)みたいな言葉が流行り、定着していくことによって、こういう美しい古語までも踏みにじって廃れさせてしまったと思うと少し忸怩たる思いがします。でも、だからと言って結婚披露宴のスピーチでいまさら「お二人のあらたしい門出を祝って」などと云えますか?といえば、ちょっともう無理でしょう。
「あたらしい」は完全にオフィシャルすぎて「あらたしい」のほうが「あいつ緊張してスピーチを間違えたぞ」と嘲笑されかねません。

いまや「あたらしい」は完全に「あらた」にマウントし勝負はあった!のですね。
平安時代には戻れないのです。

「だらしない」はもともと「しだらない」だった!

「ふしだら」という言葉は皆さんもご存じだと思います。まあ、あまり良い意味ではないですよね。
ちゃんとしていない、素行が悪い、というような、誰かをディスるときに使う言葉です。
「しだらない」という言葉も、その言葉の派生語として使用されていました。

もともと「しだら」は「自堕落」から来た言葉とか「しどろもどろ」の「しどろ」から来たとか幾つかの説が唱えられています。
サンスクリット語の「修多羅」(しゅたら)を語源とする説もあります。余談ですが、植木等さんが歌って一世を風靡した「スーダラ節」の「スーダラ」は、この「修多羅」が語源だと主張している人もいるそうです。確かに「無責任男」のキャラクターにピッタリあう言葉ですよね(笑)

これらの説をみると「しだらない」の「ない」が「無し」(否定)の意味でないことは明らかです。
「あどけない」「しどけない」「はしたない」など、接尾語として用いられる「ない」の用法と一緒ですね。

ええ?「しだら」が「ない」から「しだらない」なんじゃないの?「ない」は否定でしょ?
そう思う人も多いと思います。だって、そうじゃなければ「ふしだら」とのつながりが説明できないし。

それについては電子辞書で「しだら」を調べてみたんです。
「しだら」それ自体が「好ましくない」「ていたらく」「不行状」という意味を持っていて、もしそれを否定すると「好ましい」「ちゃんとしている」になってしまいます。「ない」を否定の意味といて用いるのはやっぱりおかしい!という帰結に至るわけなのです。

ということで、じゃあやっぱり「ない」は接尾語なんだ・・と考えざるを得ません。だって接尾語は、前についている語句の意味にさらに「ない」をかぶせて、その意味をさらに「強調させる」ためのものだから。「しだら」(悪い意味)+「(接尾語の)ない」=さらに悪い意味の強調、という図式ですね。

というのが、自分自身を無理やり納得させた現時点での結論です。

この言葉については奥が深いので、今後ももっと、いろいろな人の意見を見聞していきたいなぁ、って思います。

さて、それはそうと何故に「しだらない」が「だらしない」に華麗なる変換(?)を遂げたのでしょうか?

やはり時代は「江戸時代」(笑) やっぱりバイオレンスです。
この時代は日本の現代につながる様々な文化の萌芽の時期でもあったのと同時に、平安から連綿と続いてきた日本の古き美しき言葉を土足で踏みにじって、ズタズタに断ち切った時代でもあります。
でも、それって日本史上、はじめて庶民が文化の主役に躍り出て、これまでの限られた貴族だけの温室育ちの言葉たちを、庶民の生活パワーがじわじわと圧倒していった、ともいえますよね。

そういう見方をすると、頼もしきかな江戸時代!とも思えます。

「しだらない」が「だらしない」に音位転換された理由としては、一説によると「逆さ言葉が流行っていた」(業界人ね)、または「だらだら」というネガティブな言葉と相似していため、とか、濁音が最初にきたほうが「悪い意味」と捉えられる傾向があったから、などと言われていますね。

実は「アキバ」は正しい!?

歌って踊って握手会!という音楽グループの台頭や、オタクの聖地!家電が安い!などと世界的にも知名度の高い「秋葉原」ですが、いま日常会話で「秋葉原に行こうぜ!」なんていう使い方をするひとはおそらくマイノリティーで「アキバに行こうぜ!」がもっともシックリと耳障りのよい響きなのだと思います。

「アキバなんて省略せずにキチンとアキハバラと言わんかい!」と激怒する「日本語を愛する会」のカタブツさんがいらっしゃるかもしれません。
でも「アキバ」は確かに省略形ですが「アキハバラ」も厳密に言えば正しくはないのです。

この地名は正しくは「アキバハラ」でした。(諸説あり・・ですが)

もともとは大火事が起きたとき用に備えた空き地に、明治天皇の勅命で「鎮火社」が建てられたのを、地元の住人たちが「秋葉神社」(全国にあるよね)が防火の神様ということもあって「秋葉さまが祀られいる」と勝手に思い込み「秋葉さまが祀られている原っぱ」として、そのあたりの地名を「秋葉の原」「秋葉っ原」などと呼び始め「アキバハラ」になったといわれています。そしてこの「鎮火社」も瓢箪から駒のように、のちに正式に「秋葉神社」となったとのことです。

ここの地名は鉄道が敷かれた後、駅名が変遷します。「あきはのはら」→「あきははら」を経て、明治44年に「あきはばら」となって現在に至ります。

いまの若者は「あきはばら」を略して、アキハではゴロが悪いのでアキバと言っているのだと思いますが、気がついたら時計の針が一回転、先祖帰りした面白い例ですね。 

他にもあるよね!音位転換の身近な例!

舌鼓(シタツヅミ)なのに、普段の会話ではシタヅツミと言いますよね。今、PCでこのブログを書いていますが、どっちで入力してもちゃんと「舌鼓」と一発変換されます(笑)

山茶花は普通に漢字として読むとサンザカであり、もともとはこれが正しいはすです。でも、サンザカで変換すると4番目、そしてサザンカで変換すると一発。これは完全に「サザンカ」が覇権を握った事例ですね。
確かに大川栄策さんが「サンザカの宿」として歌ったとしたら、やっぱりなんか変ですものね。

PCの入力の話題つながりでお話しますと「フンイキ」はこの入力で雰囲気と変換されますが「フインキ」ですと「府インキ」と表記されますね。つまりこの言葉はもともとの「フンイキ」が「フインキにのまれず」踏みとどまっている!ということ。オッサンのダジャレです。ごめんなさい。

ちなみに冒頭の飲み会でこういう会話をしていたら「≪おざなり≫と≪なおざり≫もそうだよね!」と言われましたが、これはまた、実は全然ジャンルが違う話なのだそうです。その話をここですると、さらに多くの紙面を要することになるので(笑)またあらためて♪

今日はこんなところで失礼しますね~

(●^-^●)

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